闇夜に輝く
第45章 闇夜に輝く夜の蝶
その時、後ろから足音が近づいて来た。
理子さんの準備が終わったようだ。
振り向くと、シャンパンゴールドのロングドレスに身を包んだ理子さんが上品な笑顔で歩いてきた。
通りやすいように少しだけ海斗が避ける。その肩先に触れるようにしてスルリと通り抜け、村上様の隣に座った。
「お待たせ。珍しいね、村上さんがヘルプの女の子を付けないなんて」
「筑波さんと少し飲みたくなってね。お仕事があるのに引き止めてしまったんだよ」
「ふふ、村上さんはいつも海斗さんを褒めてましたもんね。どうしてだっけ?」
「ん?筑波さんは常にお店に同化してるからね。自然と自分の存在を消してるんだよ。いつも見てると、女の子やお客さんを引き立てようとする気持ちが感じられるんだ。だけど、今日は筑波さん自身の人間性を感じられる出来事があってね。なんか嬉しくなっちゃったんだよ」
「お恥ずかしい限りです」
「何があったのかしら。村上さんがリシャールを飲ませるなんてよっぽどのことね」
「大したことじゃないよ。ねぇ、筑波さん?」
「いえ、お声をかけていただいて光栄です。とても素晴らしいひと時でした」
海斗は深々と頭を下げ、顔を上げるタイミングでチラリと山田君を見る。
それに気付いた山田君が少しの間をおいて海斗の所にくる。
「海斗さん、店長がお呼びです」
小さい声でそう囁く。海斗は2、3回頷き、村上様の方を向く。
「今日は貴重なお時間をありがとうございました。名残惜しいですが、私はそろそろ業務に戻らなければなりません。ご馳走様でした」
グラスを持ち上げ乾杯をし、席を立った。
理子さんが口パクでありがとうと笑顔を送ってきた。
海斗は目だけで会釈をし、フロアに戻る。
山田君とすれ違い様に
「気付いてくれてありがとう」
と言い、少し押し気味になってしまった他の席の延長確認へ向かった。
その後、村上様は普段と同じ時間に帰っていった。
しかし二つだけ普段と違う事があった。
それはいつもより高いシャンパンをオーダーしたことと、この日初めて酩酊状態で家路に着いたことだった。