闇夜に輝く
第45章 闇夜に輝く夜の蝶
0時近くになり、1組の夫婦が来店した。
男性をよく見ると近くの寿司屋の大将だった。
いつもの白い板前の姿ではなく、結婚式帰りのようなスーツ姿で所在無さげに入口に立つ大将。
海斗がエスコートし、席へ案内する。
おしぼりを手渡すと、大将は豪快に顔を拭いた。
隣で奥様らしき方が恥ずかしそうにたしなめている。
海斗は笑顔で話しかけた。
「大将、ご無沙汰しております。今日は魅力的な女性をお連れなんですね」
「おお、海斗くん。久しぶりだなぁ。何だ、ちょっと見ないうちにまた一段と男前になったな!あ、これうちのカミさんな。こんなババアに魅力的だなんてな。綺麗って言わないところが憎いねぇ。俺も今度うちの客にババアが来たら使わしてもらおう。わはは」
「ちょっと、お父さん!みっともないから大声出さないでよ。お兄さん、すみませんねぇ」
慣れない雰囲気に呑まれないように少しテンションが高めの大将と、周りを伺いながら困った顔をする奥様が微笑ましい。
海斗は大将のテンションに合わせるように努めて元気よく対応する。
「いえいえ、私も久しぶりに大将に会えて嬉しいです。お店にも食べに行きたいのですが、仕事があってなかなか行けませんので」
「おう、気にすんな。その分、この店の女の子達にはうちの店を使ってもらってるからな。それに理子ちゃんが今日で最後だって聞いてよ。俺よぉ、こんな高い店行くとカミさんがうるさくてな。いつもは安いスナックばっかりだからよ。でも、理子ちゃんはうちの店に上客を一杯紹介してくれたんだ。だから二人でお礼がしたくて来たんだけど、どんぐらいだ?10万で足りるか?」
「はい。大丈夫ですよ。増田店長にも話は通ってますから。ご指名は理子さんで宜しいですか?」
「おう、そうしてくれや、悪りぃな」