闇夜に輝く
第51章 黒服として
エレベーターが閉まりキャスト全員が店を出ると、増田さんは急に不機嫌になった。
「海斗!ちょっと話がある。こっちこい!」
厳しい口調で言い放つと、いつものVIP席へ移動する。
不穏な空気に嫌な予感を抱きつつ、海斗も慌てて後を追う。
席に着くなり、増田さんが怒り出す。
「海斗!サラの教育はどうなってる?なんなんだあいつは!」
「す、すいません!」
何のことかよくわからないままだったがとりあえず謝る。
「チッ!その様子だとサラからは何も聞いてないようだな」
「はい。何があったんでしょうか?」
「今度、都内にニューオープンするイタリアンレストランがあるらしいんだ。そのプレオープンのパーティに一緒に来てくれないかと頼まれてる。だけどな、あいつの魂胆が気に食わねーんだよ」
「魂胆…ですか?」
海斗が話の意図を探るように質問すると、増田さんは忌々しそうに答えた。
「ああ。あいつが一緒に来て欲しいのは俺じゃない。代表という肩書きとポルシェの助手席だ。最近のあいつは金に惑わされすぎている。ああいうのは金持ちから嫌われるぞ。もしくは都合よく遊ばれてポイだ。あれじゃ華やかな世界に憧れるだだの女子大生じゃねーか。キャバ嬢はその世界の舞台に立つ側の人間なはずだろう。キャバ嬢としてのお願いなら聞いてやれるが、ミーハー女子大生のお願いを聞いてるほど俺はヒマじゃねぇんだよ。そこんとこしっかり教えておけ!」
そう言って増田さんは内ポケットから名刺入れを取り出し、自分の名刺を何枚かテーブルに叩きつける。
「来週の日曜日は予定空けとけよ。俺の名刺を持っていっていいから海斗が適当に店長でもなんでも演じておけ。お前くらいの若さで店の代表者なら格好も着くだろう」
そう言い放ち、憮然としたままタバコをふかす増田さん。