闇夜に輝く
第51章 黒服として
海斗はテーブルに散らばった増田さんの名刺を見つめながらサラさんとの出会いを思い出していた。
昨年の秋に優矢君と一緒にいったイベントで知り合い、飲みに行き、色々な話をした。
そんな事を思い出していると海斗は気付いた。
サラさんをこの世界に引き込んだのは自分なのだと。
思わず両手で顔を覆ったまま固まってしまう海斗。
ふいに声がかかる。
「おい、海斗」
「は、はい」
「勝手に一人で考え込むなよ。不機嫌なまま放置されると俺がバカみたいじゃねーか」
「す、すいません」
増田さんは大きくため息をつくと、海斗の額を小突く。
「ったく、どーせサラの事を考えていたんだろ。普通は上司が不機嫌になったら様子を伺うか、ご機嫌をとるもんだぞ。それが存在も忘れて考え込むとか。お前は普段は察しがいいのに、キャストの事となると本当に周りが見えなくなっちまうんだなぁ」
そう言ってまたタバコに火を付ける。
煙を吐き出すと質問された。
「で、何を考えてた?」
「はい。最近のサラさんの違和感についてです。入店当初と今と何が違うのか考えていたら気付きました。今のサラさんって1年前の俺と同じだなって」
「ほう?どんな風に?」
そこにはさっきまでの不機嫌な顔ではなく、興味津々な増田さんの顔があった。
海斗は増田さんの変化に気づきつつも、その雰囲気に流されないように真剣に話を続ける。
「あの頃、俺もこの世界に慣れてきて勘違いしていたんです。夜の住人っぽく振る舞うことやそういった場所を経験し、そういった人と仲良くしないといけないと思っていました。増田さんや優矢君みたいな振る舞いや仕草を真似てたんだと思います。高いバーで飲んだり、無理して高級な物を身につけたり、値段の高いものなら何でも良いものだと盲信していた感じがします」
業界のイロハを覚えただけの半人前が、勘違いをして一人前のように振舞う。
その恥ずかしさに気づいてからが一人前への第一歩。
海斗自身、その事に気が付いたのも最近になってからだった。