闇夜に輝く
第51章 黒服として
増田さんは興味津々な態度から、今はニヤニヤと海斗の話を聞いている。
「それで?」
増田さんに促され、海斗は過去の自分を思い出しながら話を続ける。
「はい。俺は当時まだまだこの業界の色に染まっていない時期だったのに、ただの女子大生だったサラさんからは夜の世界の人として見てもらえる。その事に多少の優越感を感じていたんです。あのままだったら地に足がつかず、今頃は借金まみれだったかもしれません。だけど俺の場合は妹のお陰で遊びや無駄な事ににそれほどお金を使えませんでした。学費や2人分の生活費、今後の妹の学費の蓄えなどの制約があったので、派手な生き方はしなかったんです。でも自分一人で生きていたら今頃勘違いしたままドンドンエスカレートして、連日クラブに通ったり、無駄に豪遊したりもっと派手な生活をしていたかもしれません。そして遊ぶ金のために、もしくは借金返済のためにこの仕事をしている可能性があったんじゃないかと思うんです」
「そんなのこの業界に足を踏み入れれば誰しもが通る道だと思うぞ。それに派手で華やかな生活を送る為にこういう所で働いているキャストや黒服といった業界関係者だっていないわけじゃないんだけどなぁ」
「はい。根っからの遊び人はそれでもいいと思います。けど俺は元々そんなタイプではありませんでした。サラさんも同じだと思うんです。だけどこの業界は女も男も色気のある魅力的な人達が多いから合わせなきゃいけないと焦るんです。でもある時、気付きました。俺は黒服で裏方の人間だって。だから無理する必要はないんだって。でもサラさんはそうはいかないじゃないですか。あの子が腰掛けのキャバ嬢のままでいるのなら無理をする必要はないんですが、トップキャストと張り合おうとする気構えが見えるので俺の中で違和感に繋がり、その後の事を考えると不安になるんです」
海斗は苦しい胸の内を明かした。最近はそんな感情をどこかに置いて、仕事として、黒服としての立場を優先していた。
今回の増田さんとの話はきっかけに過ぎない。サラさんの欠点に気付いてしまった今では、不安定な精神状態のままトップキャストへと仕向ける事に海斗は躊躇してしまう。