闇夜に輝く
第52章 捜査
「お、いたいた。おーい海斗〜」
ふいに呼ばれて振り向くと増田さんがいた。
ニヤニヤと悪い笑顔で近づいてくる。
「なんだ、坂東が泣いてるって言うから見に来たのに、泣いてねーじゃん」
「いや、…泣かないっすよ」
海斗の隣に並んだ増田さんもタバコを取り出し、屋上の柵に肘を乗せ夜の繁華街を見つめながらタバコを吸う。
「ツカサの奴、捕まったんだってな」
おもむろにそう言った増田さんの横顔を海斗は見る。
先程までの笑顔はなく、何の感情も読み取れない氷のような表情で夜のネオンを見つめていた。
「知ってたんですか」
「ああ、実はさっきまで俺も所轄の刑事に直接呼ばれてたからな。色々と聞かれたわ。なーんか、かなりデカイ事件みたいだぞ」
「そうなんですね…」
「お前も電話で色々と聞かれたらしいな。ツカサの事、庇ったりしてねーだろうな」
「したかったんですけどね…。でも、かばうことが…、出来ませんでした」
海斗は下を向き、柵に額を付ける。
「お前の所為じゃねーから気にすんな。お前が庇おうとしても、どうせ俺がツカサの情報を売る。ああなってしまったらもう誰もツカサを助けてやれねーんだ。だったら今ある大事なものを守るしか道はないだろう」
「でも…、やっぱりつらいっすよ」
「フッ、まだまだ甘いな。けど、優しいんだなぁ。海斗は」
増田さんはガシガシと荒っぽく海斗の頭を撫でる。
「そろそろ営業始まるぞ」
「はい…。すぐ、戻ります」
そうして、夜の住人としての日常に舞い戻る。
その日常は犯罪と隣り合わせな世界。
自分がしっかりしなければ、簡単にそういった事件や犯罪に巻き込まれる。
華やかな世界の闇はどこまでも深く黒い。
浮かれ過ぎていると簡単に取り込まれる。
そんな世界を生き抜くには、意図的に人間らしい部分を欠落させなければやっていけないのかもしれない。