闇夜に輝く
第53章 色管理
そんな事を1時間ほど繰り返していると、先ほどオーナーと名乗った東山という男性が話しかけてきた。
「どうですか?楽しんで頂けてますでしょうか。先程はゆっくりお話が出来ずに申し訳ありません。私、こう言うものです」
海斗はカウンター席に座ったまま、差し出された名刺を受け取り暫し見つめたあと、裏返す。
すると、系列店と思われる店舗名と住所が複数書かれていた。
どれも都内の一等地のものばかり。
海斗は一瞬迷ったあと、増田さんから渡されていた名刺ではなく自分の名刺を差し出した。
「私のような者をお招きいただき、ありがとうございます。と言っても、サラさんに連れられて付いてきてしまっただけなのですが。それにしても、手広く事業をされているのですね。きっと各店舗とも、この店の様にコンセプトが明確なんでしょうね」
海斗の言葉におやっとした表情をした後、とても嬉しそうにする。
「いい店だと褒めてくださる方は結構いらっしゃいますが、その様なお言葉をかけてくださる方はなかなかおられません。それに先程から筑波さんの様子を見させて頂きましたが、お若いのによく周りが見えていらっしゃる」
そう言って東山はするりと海斗の隣の席に座った。
改めて海斗の名刺をじっくりと確認すると、
「ほぉー、ニューアクトレスの主任さんですか。そう言えば、あの街にも経営者仲間が多くいますが、その方達からもお店の評判は良く聞きます。なるほど、オーパスワンの2005年物をチョイスされるあたり、お若いのに素晴らしいセンスですね。飲食店に携わる筑波さんから見て、この店はどの様に映りましたか?」
にこやかに問いかける姿は役者のように演技かかっているが、嫌味な印象は受けない。
このような振る舞いを長年続けてきた人特有の、自然さを醸し出している。
けれど、海斗はこの男からどこか胡散臭い空気を感じていた。