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闇夜に輝く

第53章 色管理



車に乗り込むとサラさんが聞いてくる。

「運転大丈夫?飲んでないの?」

「最初の一杯に口付けた程度だし、その後はコーヒーを飲んでたから問題ないよ。それより、この後時間ある?」

「うん!どっか行きたい」

海斗は車を走らせ渋谷に戻り、とある店にサラさんを連れて行く。
店前でサラさんも気づいたようだ。

「ここって、海斗さんと初めて会った時に来たバーだ。うわぁ、懐かしい」

「覚えててくれたんだね。嬉しいよ」

店内に入り、2人掛けのテーブル席に斜め向かいに座る。

「飲み物は何にする?」

「んーと、海斗さんに任せる」

「そっか。前に来た時って何を頼んだか覚えてる?」

「ふふ、覚えてるよ。ヴーピン。あれが私の初ヴーピンだったんだもん」

「そうだったね。けど俺もあの時が初めてまともに飲んだヴーピンだったんだよ。じゃあ、それにしようか」

「うん。あ、でも海斗さん運転は?」

「んー、代行を頼むから大丈夫」

海斗がヴーピンをオーダすると、見慣れた店員がシャンパンを持ってきた。

その店員が「お久しぶりですね」とにこやかに挨拶をすると、繊細かつ優雅な動作でコルクを抜き、静かにグラスに注ぐ。
グラスを滑らせながら二人の前に置くと、ボトルをクーラーへ静かに置き、一礼して離れて行く。

この全く迷いや無駄のない洗練された一連の動きに海斗は毎回驚かされる。

サラさんを見るとにこやかに海斗がグラスを持つのを待っていた。

10ヶ月前はキョロキョロと周りを見たり、海斗の動きを真似たりしていたサラさんが、今は全く動じてはいない。
まぁ、少なくとも週一でヴーピンを飲むような生活を送っているのだから、同伴やアフターでここと似たような場所に行く機会も多いのだろう。

そして金銭感覚も変わる。

目の前で客が払う10万、20万という額を毎日見続ける。
3万のシャンパンなんてうちの店では最安値。

そして毎月サラさんが受け取る給料もあの頃とは違う。変わらない方がおかしい。


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