闇夜に輝く
第53章 色管理
それでも海斗は続けた。
「だけどね、夜の仕事にこれ以上のめり込まなければ今ならまだ引き返せる。
友達とマックに行って、お得なセットに魅力を感じて、そんなに食べたくなかったポテトが付いてきても喜べる。ガタついたテーブルで友達と話しながら、ハワイ旅行に行きたいねとか、青山の美容院で髪が切りたいとか、大学の◯◯君ってカッコいいよねとか、そんな話にも共感できる。
年相応の感覚のままでいられる。
けれど、もうすでにそういう話題には物足りなさを感じているでしょ?
別に見下している訳ではないのに、そう思われてしまう。
それから、友達からサラさんの生活を羨ましがられたりする反面、本当は裏で馬鹿にされてるんじゃないかとか、軽蔑されてるんじゃないかとかの悩みもきっと少なくなるはずだよ」
俺はサラさんの横顔を見た。
どんなに着飾って背伸びをしても、まだ夜の業界に1年もいない21歳の女の子。
今日待ち合わせ場所で会ったときはとは違い、幼く見えた。
シャンパンを飲みながらサラさんの言葉を待つ。
サラさんはしょんぼりしながらもこれからについて真剣に考えているようだった。
サラさんもシャンパンを少しだけ飲むとそのグラスを見つめながらつぶやく。
「自分でもこの仕事に向いてないかもって思うときはあるよ。だけど、この仕事始める前までの普通にバイトして大学に通う生活に物足りなさを感じていたのも事実。失う物もあるかもだけど、きっと得る物もあると思うの…」
「そうだね。ちゃんと失う物を認識出来ているんならいいんだ。もしその事で寂しさを感じるなら思い出して。俺は常にそばにいるし、見てるから」
海斗はそっとサラさんの肩を抱き寄せた。