闇夜に輝く
第53章 色管理
サラさんは海斗の肩に頭を乗せて見上げると、
「なんか、今日の海斗さんはいつもと違うね。なんで?」
「さっきさ、失う物と得るものって話が出たじゃん。この仕事で得るものって何?」
「んー、お金って思ってたけど、海斗さんの話を聞いてると違う気もする」
「俺はね、良いものを見分ける『目』だと思う。さっきのパーティの店をサラさんはどう感じた?」
「オシャレなお店だと思ったよ。デートで使えそうだよね」
「うん、パッと見はそうなのかもね。でも俺にはハリボテの店としか映らなかったんだ。外装や内装にはお金がかかってるけど、中身がない。メニューを見るとありきたりで耳障りの良いものばかり。俺はコーヒーを飲んでいたけど、それもがっかりだった。デロンギのコーヒーメーカーが置いてあるのにそれを使わず、粉コーヒーをドリップしたものが出てきた。一度お湯でカップを温めるといった最低限の配慮もない。それに店員もただ突っ立ってるだけ。例えばね…」
海斗はそう言って顔を上げ、カウンターの方を見る。
カウンター内にいたバーテンダーがそれに気づき、軽く手を挙げる。
素早くフロアの店員に目配せすると、フロアの店員が海斗のテーブルに来た。
シャンパンを注ぎ足しながらにこやかに海斗に視線を合わせ、他に何か注文がないか目だけで確認をとる。
海斗も注ぎ終わるのを待ってから追加注文を伝えた。
「スカイダイビングを1杯もらえますか?」
「はい。かしこまりました」
下がっていく店員を見ながら海斗はサラさんに話の続きをする。
「ここはね、ああやって何も話さなくても意思の疎通が出来るのが特徴なの。必要最低限の言葉でオーダーが出来るから客の会話の邪魔をしない。それにね…」
そうして海斗は話すのを途中で止めて目立たないようにそっとカウンターを指差す。