闇夜に輝く
第53章 色管理
カウンターからはメジャーを操る音、小気味良いシェーカーの音が響いている。
暫くしてオーダーしたカクテルが出てきた。
フロア担当の店員が海斗達の前でシェーカーを振り、カクテルグラスに注ぐ。
カシャンと最後の一滴まで注ぎ、二人の真ん中へとグラスを滑らせる。
一礼して店員が去っていく。
その流れるような動作を見届けた後、海斗は話の続きを再開した。
「このグラスを見てごらん。このカクテルはスカイダイビングって名前のカクテルなんだけど、それにしか使わないグラスなんだって」
そのグラスの脚の部分にはガラスで出来た羽ばたく小鳥があしらわれていた。
海斗は指先でその小鳥を撫でる。
「この小さいくちばしの部分が少しでも欠けてしまったらもうこのグラスは使えないんだ。それから、カウンターの端にいる店員が行っているのはスピリッツ氷を作る作業。板氷を切り分け、角を削った六角形のクリスタル形状にする。そうすることで氷が溶けにくくしている。俺は一人で来るといつもあそこの前に座るんだ。職人技が見れるからね。シェーカーを振るのは派手で見栄えがいい。けれどこういった地味な作業をしっかりと行う店は少ない。ここは一杯の値段が1000円以上するけど決して高くはないと思う。手間をかけてるし、本当の意味で顧客を満足させたいという配慮が見えるから良心的な値段だと思えるくらいなんだ」
そう言って海斗はスカイダイビングを一口飲み、話を続ける。
「忘れないで欲しいことがある。高いものが良いんじゃなくて、良いものは高い。けどその違いを感じる為にはお金を稼いで使わないとわからない。それはサラさんが夜の仕事を今以上に頑張りたいと思っているならサラさん自身にも当てはまる事なんだ。着飾る事も大事だけど、中身も磨いていかないとね。それに浪費家ではなく、価値のわかる女性でいて欲しいと思ってる。でないと失うものばかりになってしまうから」
抱き寄せたまま話していた海斗だったが、にこやかにサラさんの方を見た。