闇夜に輝く
第54章 勘違い客
海斗は気を取り直し、楓さんに話しかける。
「じゃあ、バックはそうしとくけど、まだ支払いしてくれるかわからないからなぁ。未払いだとバックすら付かなくなる。話した感じ、この名刺は嘘じゃ無さそう?」
海斗の質問に楓さんは結衣菜さんから離れて、答える。
「多分本物だと思うよ。何か今日が若い人のインターンの最終日だったらしい。あの二人は高校、大学の先輩後輩って言ってた。だからインターン生の中でも特に可愛がってるんだって」
「そっか。なら、何とかなるかもな」
「ちゃんと支払ってもらってね。あのおっさん接客中ずっと偉そうにしてたんだから。しかもこの店は常連みたいに振舞ってたし。あ〜、気を遣って話し合わせてあげたのにバカみたい!って、ちょ、結衣菜ちゃん!?何で着替えようとしてるの?」
「ん?」 「え?」
慌てた様に騒ぎだした楓さん。
その視線につられた海斗が振り向くと、ドレスの肩紐を下ろして着替えようとしている結衣菜さんがいた。
流石に海斗もびっくりする。
結衣菜さんも一瞬キョトンとした後、笑顔になる。
「あはは、海斗さんはお兄ちゃんみたいなもんだし気にする必要ないから。早く帰りたいし。ねー?海斗さん」
「ははっ、結衣菜はサービス精神旺盛だなぁ。でも、さっさと着替えてくれるのは助かるよ。送りの車もかなり待たせてるからさ」
「はーい。急いで着替える」
そう言うと、まるで5歳児かのように恥じらうこともなくポイポイっとドレスを脱ぐと、下着姿のままロッカーを物色する結衣菜さん。
その様子を見た楓さんは、怒りが削がれてしまったのか呆れたようため息をついた。
結衣菜さんのお陰でこっちのトラブルはそこまで深刻にはならないで済みそうだった。