闇夜に輝く
第54章 勘違い客
その名刺を見てピンとくる坂東さん。
先程までとは違い、いきなり穏やかな口調になった。
「あらあら、井上さんは◯◯電機の課長さんじゃないですか」
急に客を名前で呼び、フレンドリーになった坂東さん。
不審に思い、若干焦る井上と呼ばれた男。
「だ、だからなんだよ。会社に押しかけてきたら、それこそ訴えてやるからな!」
「はぁ。ヤクザじゃないんだからそんな事しませんよ。確か、あそこの社長さんは渡辺さんでしたよね。それから専務は酒井さんでしたか」
「……えっ?」
その男の態度が急変する。
しかし、気にせず坂東さんが続ける。
「お二方とも、大変懇意にさせて頂いております。この間もゴルフコンペでご一緒させて頂きましたし。なんだ、そう言うことなら早く仰って下さいよ。で、この金額の請求書を渡辺様宛で御社にお送りしてよろしいんですね?」
「いや、ちょ、…」
狼狽する男に、坂東さんが凄みの効いた声で畳み掛ける。
「あなたねぇ。そんな子供みたいな手口が通用するとでも思ってんのか?ここ、どこだかわかってます?この店構え見て分からない?ボッタクリなんかやるあやしい店な訳ないだろ?今払うの?請求書を送っていいの?どっち?」
「は、払います、払います!」
「ったく。あんた、もうこの近辺で飲まない方がいいですよ」
坂東さんが呆れたようにそう言い放ち、その男からようやくクレジットカードを受け取った。