闇夜に輝く
第55章 泥沼の先に
海斗は慎重に言葉を選びながら会話に加わる。
「ここ最近、楓さんが色々な意味で変わってきているのは俺も感じています。しかし、楓さんが一番信頼を置いているのはやはり坂東さんです。それは変わらない事実だと思いますが……」
そう言って海斗は再び坂東さんを見る。海斗の言葉に坂東さんは顎髭をさすっていた手を止めると、大きくため息をついた。そして
「俺には楓の成績をこれ以上伸ばしてやれないってのがわかったんだ……」
そうポツリと言い、寂しそうに海斗に笑いかけた。
そして何かを吹っ切ったかのような口調で言葉を続けた。
「楓ももう22歳だ。ガキじゃない。それは分かっているが、俺にとってはヤンチャで子供だった頃の楓のままなんだ。あいつはこの業界でのキャリアも5年以上になる。そして本来なら今が一番稼げる時期なはず。でもその時期は永遠ではない。だから俺が担当じゃダメなんだ。今後の楓の事を思えば思うほど、あいつに合った担当を付けてあげたいという気持ちが強くなったんだよ」
自分の気持ちをごまかすかの様に自嘲気味に笑う坂東さん。
けれど、言葉の節々から、坂東さんのやるせない気持ちは海斗にも伝わってきた。