闇夜に輝く
第55章 泥沼の先に
海斗は反論せずにはいられなかった。
「増田さんが言いたいことも分かります。けれど、楓さんと他のキャストが起こすトラブルを避ける必要もありませんか?顧客を満足させるにはキャストが働きやすい環境を作り出す事が大事だと思います。なのでキャスト同士の相性も考えっ……」
「海斗っ!!」
海斗の意見を坂東さんがでかい声で制する。
ピリッとした空気がその場を包んだ。
海斗はハッとして発言を止める。そして増田さんを再度見てゾッとした。
いつの間にかソファの背もたれから背中を離し、背筋を伸ばして腕を組んでいる。
明らかに怒っていた。今まで何度も目にした爆発的な怒りではなく、無言の圧で押しつぶされそうな恐怖を感じる怒りだった。
「…海斗、なぜ俺がムカついてるかわかるか?」
「い、いえ…」
背中から冷たい汗が流れる。普段キャストや客に見せる役者のような増田さんの姿とは全く違っていた。
海斗は、熱したナイフを喉元に突き付けられたかのような錯覚を覚えた。