闇夜に輝く
第55章 泥沼の先に
増田さんはその圧を保ったまま、低く冷たい声で言い放つ。
「今の発言には付け回しとしての信念が感じられねぇな。坂東がどんな思いで楓を山田に託すと思ってんだ?トラブルを避ける?ふざけるなっ!問題から逃げてんのはテメーじゃねーのか?あ?」
「は、はい」
海斗は忘れていた。自分がこれまでの人生で接してきた人間の中で一番情熱的な人間が誰だったのかを。
増田さんはキャスト以上に普段から喜怒哀楽を演技する。
けれど本来の増田さんは誰よりも人の感情に敏感で思いやりのある熱い人物なのだ。
この担当替えの決断に誰よりも忸怩たる思いを持っているのは増田さんだった。
「いいか、これからは楓に関しては徹底的に厳しくいけ!トップ5にも入れないキャストに気を遣って付け回ししてどうする!この店でのキャリアが長いからって楓にデカイ顔をさせるな。キャストの為に客がいるんじゃないんだぞ、客の為にキャストがいるって事を忘れるな!」
「はい!」
どんな方法を取れば楓さんがこの苦境を脱却してくれるのかはわからない。けれどこのままの状態が続いてしまえば、近いうちに楓さんが店を辞めてしまうだろうというなんとなくの想像はあった。