闇夜に輝く
第2章 週末の夜
そして会話を続ける。
「お客様は、いつもウイスキーをお飲みですが、お好きな銘柄は何になられるんですか?」
客はつまらなそうにしながらも手持ちぶたさを紛らわすように会話にこたえる。
「俺は、普段はバーボンが多いな」
「そうなんですか。私も最近、やっとウイスキーの良さがわかるようになりまして……、ただまだハイボールとかのほうが好きなんですけどね」
「ふん!それはまだうまいウイスキーを知らないからだな」
客の態度が不機嫌そうな表情から少しだけ偉そうな表情へと変化した。
海斗はさらにへりくだった態度で会話を続ける。
「そうですね、なかなか高いお酒を飲むような余裕が持てなくて…。その点、お客様はよく飲みなれていそうで羨ましいです。ちなみに、どんなウイスキーがお勧めですか?」
「そうだなぁ、バーボンだとハーパーが俺にはあっている。モルトウイスキーだとシーバスなんかも癖がなくていいぞ」
「どれも高くてなかなか飲めないですけど、機会があれば飲んでみますね。その時にまたお客様に教えていただければうれしいです」
「おいおい、ここには楓に会うために来てるんだぞ」
客があきれつつも苦笑した。
海斗もそれに合わせて表情を明るくし、おどけたようにかしこまる。
「ハハハ、そうでした。勘違いしてしまいました。あ、そろそろ、その楓さんが戻りそうなので私は下がります。どうぞごゆっくりしていってください」
「おう、若いの。がんばれよ」
そう言って笑顔でポンポンと海斗の肩を軽く叩く。
「はい、ありがとうございます。失礼します」
海斗が立ち上がると、入れかわる様に楓さんが席につく。
その際、少しだけ楓さんと目があった。
視線だけで会話を交わしまた通常業務につく。
その日は金曜日で常にキャストのマイナス状態が続いていたため、色々な卓で同じようなやり取りをしていった。