あなたを三番目の男のままにすればよかった
第1章 私と彼の安寧な世界
足早に、夜が明けた、騒々しさの消えた街を歩く。
彼の勤めるビルへ真っ直ぐに。
青い明かりは消えている。人影はない。
お店の前に、彼のロードバイクが、ある!
車通りは少ない。信号機を無視して街角のビルに入り、階段を駆け上がる。
お店のドアは、開いていた。
すぐにソファーで寝転がる彼を見つける。
走ったことがばれないように、ゆっくり近づく。
待っててくれたんだ。
パーマをかけた黒い髪。規則正しい寝息。
「拓也くん」
呼びかけて、胸が苦しくなる。
やっと。やっと。
無防備だ。寝顔に、キスをする。
見つめてる間は本当に、静かだった。彼の寝息だけで、世界に二人きりみたいだった。