ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第9章 二人だけの卒業旅行
千陽side
部屋の明かりを付け、本棚の上にちょこんと鎮座する、色褪せたマスコット人形を持ち上げ、百面相をしてみる。
その、下から舞い落ちる一枚の紙切れ。
『昨日は遅くなってごめん。この埋め合わせは必ずするから。』
大学生の男の子には珍しい、達筆な字。
その紙切れを見ながら、ごろりとベッドに仰向けになった。
夕べは久しぶりに家に来てくれたっていうのに、また意地悪をしてしまった。
圭太だって就活で忙しいのに、
僕なんかのために時間を作ってくれて。
ほんとは誕生日なんてどうでもよかった。
ただ、会う口実が欲しくて誕生日を指定しただけだったんだ。
それを僕は…。
メールの着信音に飛び起き携帯を見ると、
『やほー!!慎之介くんです。また、ケンカしたんだって?』
慎之介くんだった。
圭太の親友で、何かと僕らのことを気にかけてくれていて、相談に乗ってくれる。
恋愛経験の少ない僕も、彼に相談することも少なくなかった。
「温泉?」
圭「受験がすんだら…どうかな?と思って?」
「いいけど…」
圭「あっ!!近場の温泉なんだけど…いい?」
「うん…。」
付き合い始めて一年とちょっと。
僕らはまだ、キスから先に、進めてはいなかった。