
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第11章 もう一つの恋
千「よかった。ここで慎之介くんに会えて。」
ブレーキの効きが今いちよくなくて、という彼の自転車を念入りにチェックした。
「うーん。ちょっとここじゃどうにも…」
ペダルを何回もぐるぐる回してはブレーキをかける、ということを繰り返す。
千「じゃあ、直る?」
「うーん、イケる、と思う。どうする?なんなら今日、預かるけど?」
うーん?と腕組みをし、ちょっと待ってて?と言い置いてから千陽さんは何処かへ電話をかけた。
千「うん…うん……いい?じゃ、待ってる。」
圭太が迎えに来んのか…。
千陽さんの弾むような声音に胸の奥がきりりと痛んだ。
千「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「あっ!?ああ、いいよ?」
明るい声色と同じような明るい笑顔で顔を覗き込んでくる。
アンタもそんな顔で笑うんだな?
あの日のアイツみたいに…。
裏口のドアを何度も開け、機嫌の悪そうな顔をした店長と目が合う。
「千陽さん、もう行った方が…」
音を立てて閉められたドアをアゴで指す。
ごめん、の言葉だけを残し、慌てて店の中に入って行く音だけを背中に感じながら、
俺は自転車に跨がった。
