ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
千陽side
「はい、終わりましたよ?」
「…すみません。」
僕は指先に巻かれた絆創膏を見て溜め息を吐いた。
「それにしてもあんな大きな棘、痛かったでしょ?」
「まあ。でも、ボンヤリしてた僕もいけなかったんだし。」
「そんなことないわ。美術室にあんな古い机があること自体おかしいのよ?」
と、保険医の田嶋先生は音を立てて戸棚の扉を閉めた。
「仕方ないですよ。美術室はそんなに頻繁に利用する教室じゃないですし?」
「仕方なくありません!大体、島崎先生は優しすぎるんです!!」
鼻息を荒げたまま、田嶋先生は僕の向かいにどかっと腰を下ろした。
「私、随分前から言ってたんです。島崎先生みたいに怪我して保健室に来る生徒もいるから机を新しいものに換えないとダメですよ、って?」
そして、喉が乾いた、とまた立ち上がった。
「あ、島崎先生も飲みます?コーヒー。」
「あ…僕は…」
「大体、学校の経営が厳しいからって、生徒も利用する教室にあんな粗悪な備品を使うなんて!」
僕の返事も聞かずに、田嶋先生は二人分のコーヒーを手に再び椅子に座った。