ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第13章 水に挿した一輪
「い、いただきます。」
せっかく淹れてくれたのだから、と、供された目の前のコーヒーを飲む。
カップに口をつけた時、ふと、田嶋先生の後ろに生けられた一輪の小さな白いバラに目を奪われた。
そう言えば、三、四日前に授業中に気分が悪くなった生徒に付き添って保健室に訪れた時にも確か、あの花があったような気がした。
「どうかしましたか?」
「いえ…あの花、三、四日前にも見たなあ、と思って?」
「ああ、あれ?この間、花屋の前を通りがかったら、安く出てたし思わず買ってしまったんです。」
さっきまでぷりぷりしていた田嶋先生の顔が嘘みたいに穏やかになった。
「それが何か?」
「随分長持ちしてますけど、何かコツがあるんですか?」
僕が誕生日に圭太からもらった花は、次の日の夜にはもう萎れていた。
もらってすぐ水に浸けたのに。
「バラはね、見た目が華やかで棘もあるけどとても繊細な花なんです。」
徐に立ち上がった田嶋先生は一輪挿しを僕の目の前に置いた。
「だから、生けるときはただお水に浸けてもダメなの。ちゃんと水が上がるようにしてあげないと?」
と、田嶋先生は花瓶から花を抜き取り、僕に花の切り口を見せてくれた。