ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第2章 マドンナ・ブルー ①
彼は、そ知らぬ顔でレジの横を通り抜け、
雑誌コーナーで立ち止まった。
そして、本当にその雑誌が読みたかったのかどうかは知らないけど、女性週刊紙を手にとりパラパラと捲り始めた。
「店長、呼んで来ようか?」
先輩に耳打ちされるも、やんわり断った。
だって、
仕返しの機会を伺っているようには見えなかったから…。
それからというもの。
くる日もくる日も彼は僕のいる時間帯にやって来ては、
何か買い物をするわけでもなく、雑誌を適当に眺めたり、店内を歩き回ったり、
五分もしないうちに帰っていった。
しかも、
「島崎くんのいない時間帯には絶対に来ないのよね?あの子。」
やっぱり、仕返しの機会を狙ってるのかな?
それにしたって、あの時一緒にいた仲間の姿なんて、あれ以来見てないし…。
そんなこんなで数ヵ月後のこと。
ある若い男性がレジにたった。
その男性、色白で眼鏡をかけ、一見大人しそうな感じだったけど、
お釣りを渡そうと手を伸ばした時、
突然、その男の人が僕の手を両手で握ってきた。
ビックリして手を引っ込めようとした瞬間、小銭を床にばら蒔いてしまった。
その音で、こちらに振り向いた顔ぶれの中に、
あの、例の男子高校生もいた。