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ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜

第17章 甘くて苦い媚薬



その日夜、腕の中にいるはずの千陽さんの姿が見えなくて慌てて飛び起きた。


でも、隣にはまだ微かに温もりが確認できるからトイレにでも行ってるんだろう、と、いつもの俺だったら慌てなかっただろう。



いつもの俺だったら。



でも、この時ばかりは違った。



もしかして、凛々子の言う通り、他に恋人がいてそいつのところに行ったんじゃないか、って、



小さなアパートの部屋の中、慌てふためいてその姿を探した。



いた……。



最近の彼はいつもその場所にいる。



誕生日にあげたバラの花を描いた絵の前に。



「千陽さん?」



俺の声に、弾かれたように顔をあげ振り向いた。



「まだ、迷ってんの?」


千「う…ん。」



キャンバスに描かれた白いバラ。



俺が彼にあげた白いバラ。



花の色は白なのに、彼に言わせればまだ、絵は完成していないのだ、と言う。



「赤とかピンクとかじゃダメなの?」


千「だから…普通すぎない?」


「じゃあ、やっぱり…青、とか?」


千「ふふっ。それ、ずっと前から言ってるね?…青色のバラ、か。実際にあったらどんなだろうね?」



絵の中の花弁を彼の指先がつ、と辿る。



その指先ごと彼の体を引き寄せ抱きしめた。



「…描いてよ。俺のために…」









俺とあなたの未来のために…。


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