ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第3章 マドンナ・ブルー ②
千陽side
「しっ、失礼しました。」
慌ててカウンターの外に出て小銭を拾い集め、
改めて小銭を若い男性客に手渡すと、今度は普通に受け取り、何事もなく帰っていった。
ふと、あの男の子が定位置のようにいる雑誌コーナーに目をやると、
いつの間にか、その姿は消えていた。
それからしばらくの間、
その若い男性客も、
あの、例の男子高校生さえも姿を見せなかった。
どうしたのかな?
つい習慣で、目が雑誌コーナーに向いてしまう。
くる日もくる日も雑誌コーナーを眺めてはため息をつく僕を見て、
先輩が声をかけてきた。
「どうしたのかしらね?例の彼?」
「えっ?」
ビックリして振り返ると、先輩は意味ありげに笑っていた。
「いつもいるはずの人がいないだけでこんなにも気になるなんてね?」
「べ、別に、気になってなんか…。
…いや、今、スゴく気になってるかも。
ここ最近はいつも通りの時間に来ないだけで、
事故に巻き込まれていやしないか、とか、
風邪でも引いたんじゃないか、とか、って考えるようになっていた。
「もしかして、諦めちゃったのかしら?」
「何を、ですか?」
「島崎くんのこと。いつまでたっても振り向いてもらえそうにないから。」