
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第18章 Pure White
雅「どこまで聞いた?」
彼女の部屋までの長い長い廊下を無言で歩き続け、漸く部屋に辿り着いた後、
背を向けたままの彼女が僕に問う。
「お母さんが海外にいる、って…」
雅「それから?」
「何も…」
雅「そう…。」
キャリーケースを床に置いた途端、中にいるベルが落ち着きなく鳴き出す。
「ご、ごめん。うるさくて?今日はやめとこうか?」
雅「ううん。」
彼女はキャリーケース の側で膝をつくと、その蓋を開けた。
あっ、と言う間もなくベルはヒラリと彼女の膝へと飛び移り、腕の中へと収まった。
「こら、ベル!ダメだって!?」
彼女から引き剥がそうとすると、ベルは小さな体で毛を逆立て威嚇した。
雅「フフフッ。お前、千陽さんより私の方がいいの?」
薄く笑いながら椅子を引き寄せ腰かけた。
雅「ね、千陽さん、私、いいこと思い付いた。」
彼女は見上げるベルの喉を撫でながら微笑んだ。
雅「この子と一緒に描いて?」
「え?」
雅「…描いてほしいの。」
返事を催促するようにベルが僕を見てニャアと鳴く。
「分かっ……た。」
黒い猫を抱く白いワンピースの少女。
闇と光が織り成す、神秘的な対比に惹かれるように僕は、
鉛筆を握った。
