
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第20章 美少女の秘密
千陽side
肖像画も完成間近というある日のこと。
僕はいつものようにベルが収まっているペットキャリー持参で加納家に訪れた。
ベルは家に到着するや、早く出してくれ、と言わんばかりにキャリーケースの中でけたたましく鳴いた。
「まあまあベルちゃん、ちょっと待っててね?」
笑顔で加納雅の祖母さんがキャリーケースの蓋を開けてやると、ベルは予め用意されたミルクの入ったお皿目掛けて走っていった。
「いつもすみません。ホントにもう、ベルってば行儀が悪いんだから…」
あっという間にミルクを飲み干し、満足気に青い瞳を細めたベルが舌舐めずりをする。
「まあまあ、元気があっていいじゃありませんか。」
「そうですけど…」
「それに、もう一人孫が増えたみたいで楽しいですしね?」
老婦人はどうぞ、と、紅茶を勧めてくれた。
「ところで先生、もうすぐ絵が完成だとか?」
「はい。今日、明日中には…。」
「その絵、私たちも見れますか?」
「え?ええ、もちろん。ですが…?」
加納雅の肖像画を描いていることは圭太には内緒にしてあるので、描きかけの絵と画架はこの家に置きっぱなしにしてある。
だから、絵をこっそり見ようと思えば見れないこともないのにと、僕は首を捻った。
