
ドロップ・オブ・ロゼ 〜薔薇の涙〜
第20章 美少女の秘密
雅「一度だけでいい…。」
背中を向けた僕の袖を白く細長い指先が掴む。
雅「お願い…だから。」
「あの…加納さ…」
雅「じゃ…。」
振り返るともう、彼女の姿は静かに音を立てて閉じられたドアの向こうにあった。
一つため息をつき、薄闇に包まれ始めた道を歩き出す。
解らない…
女性しか愛せないはずの彼女が、どうして男としての自分を求めるのかが。
恋愛対象が男だと自覚してからの僕は、どんなに魅力的な女性を見ても、抱きたいなんて思ったことは殆どない。
逆に、女性から見ても魅力的な男性には時々心は動くけれども。
そんな時は決まって圭太の顔が頭の中をチラつく。
と、言うよりはその人に靡きそうになる自分を律するためにその人に圭太を重ね合わせる、といったニュアンスに近いだろうか。
兎に角、女性には欲情したという記憶はないに等しかった。
でも、彼女は違う。
あの強烈な異彩を放つ彼女の美しさは、この世のものではないのでは、とさえ思わせる。
触れてみたい、と思っても抱きたいとまで思ったことはない。
女性経験…ないからなあ…。
「………。」
あの子は…
…経験あるのかな?
