齧りかけの林檎
第1章 ● 真っ赤な君 ♀side
すると彼は、手を握っていないほうの手で、
わたしの持っている傘を持ってくれた。
あ、動けるんだ
よかった。
少し安心して、空いたほうの手で
自分の持っていたリュックサックから、
ある物を取り出した。
「はいこれ、使って。
いくら若くても濡れたままじゃ
風邪ひいちゃうから」
タオルを差し出すと、
やはりまた固まる男の子。
あー、そっか
今度は両手塞がってるから
受け取れないわけね。
握られている手を、
またくいくいっと引っ張り、彼と一緒にしゃがみ込んだ。
濡れた制服をタオルで拭いてあげると
ピクッ、と反応したけれど、
なにも言わず無抵抗だった。