齧りかけの林檎
第1章 ● 真っ赤な君 ♀side
そんな彼から目を離すことができず
この先に繋がる言葉を待つが、
手を掴んだまま、動きもしない。
どうしたらいいのかわからないまま、
目線を少しだけ下げた。
すると、男の子の履いている
グレー地のチェック柄の制服ズボンが、
さっき転んだせいで
雨でビッショリと濡れていた。
「しょ、少年、ちょ、ちょっと手を離してもらっていいかな?」
・・・・・。
どうしよう。
また動かないんですけど。
まずいな、頭でも打ったかな?
「じゃ、じゃあさ
この傘ちょっと持っててもらってもいい?」
我ながら意味がわからないが、
手を離さないならこれしかない。
両手が塞がってしまっていては、
バッグから出したい物が出せないのだから。