齧りかけの林檎
第5章 ● 君の名前 ♀side
何年振りにこんなにいっぱい走ったのだろうか。
心臓はものすごくバクバクしているけれど、こんな時間に高校生が1人で待っているかと思うと急がずにはいられなかった。
あんなに走ることが嫌いだったのに。
まだ待っていてほしい気持ちと、もういないだろうなと思う気持ちと、交互に浮かんでくる。
足がもつれそうになりながらも、彼の待っているかもしれない図書館に急いだ。
人影が見えない。
あー、やっぱ帰っちゃったか。
そうだよね、もうこんな時間だもん。
それでも逸る気持ちは止まらない。
こんな時間に、あんな若い子がまだ待っていてくれるなんてありえない。
男子高校生なんてすぐ待ち飽きて、帰ってしまっただろう。
それでしょうがないと思っていた。