アイドル様の、ホントのお顔
第3章 ~REN~
「誰からの電話だったんだ?」
「……家に着いてから話す。」
とにかく、さっさと家に帰ろう。
注目を集めっぱなしだし、これ以上誰かに声をかけられたりしたら面倒だし。
「はぁ~…」
ようやく電車に乗り込んだわけだが…
「やっぱり、マスク着けててもバレちゃうね。」
注目を集めることに変わりはない。
まあ、何も着けていないよりはマシ…だと思う。
「……あっつ…」
「取ったらダメだからね!! 外よりは涼しいでしょ?」
そりゃあ、冷房が効いてるわけだから、外よりはマシだけどさ…
「ほら、降りるよ!!」
「わかったから…そんなに引っ張るなよ…」
いつも以上に頼もしく見える綾に引っ張られながら、電車を降り、それほど遠くはない家に向かって歩を進める。
「今日、母さんいないよな?」
「うん。 友達とご飯食べに行くって言ってた。」
母さんの耳に、この話が入らないといいんだけど…
絶対にパニック起こすし。
「綾、お茶持って来て。」
「わかった。」
ほんと、隆がいる時だけは素直に言うこと聞いてくれるよな…
「先に行ってて。」
「あぁ。」
満面の笑みを浮かべてお茶を淹れに行く綾を見て、そんなことを思った。
「綾ちゃんって、ほんとにいい子だよな。」
「お前が来てる時だけな。」
部屋に着くなり、綾のことを話す隆にそう返す。
普段なら、俺の頼みなんて速攻断ってくる。
そのくせ、俺を引っ張り回すし。
「俺の言うことなんて何も聞かないくせに、俺のことは引っ張り回すんだよな…あいつ。
素直に言うこと聞くのなんて、お前が来てる時くらいだっての。」
「学校では冷たい男って言われてる人間でも、可愛い妹には弱いんだな。」
そう言ってにやにや笑う隆にイラッとしたので、軽く腹をどついてやった。