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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

大人になって大切な人をなくす気持ちって
どんなだろう。
思い出にすらなっていない人が、
そこにいない現実は
どれほどつらいものなのだろう。
それは、永遠に待ち続けることだと、
その時の私はまだ知らなかった。

夏休みも折り返し地点を過ぎた。
中学二年の夏休みが駆け足で
去っていく。
それに宿題の仕上げも大詰めを
迎えていた。にもかかわらず、
今日集まったのは私と要の
落ちこぼれ気味の二人だった。
流星は陸上部の合宿、
真緒は塾の全国模試。

「のぞみと二人じゃ、進まねー!」
「そのまま返すよ、そのセリフ」

要はバタっと後ろに倒れ、
そのまま目を閉じてしまった。
私はその隣で、この夏必死で覚えた
英語の不規則動詞を声に出して
そらんじていた。

「あー!暑い!エアコンつけて、のぞみ」
「そこにリモコンあるじゃん」

要は渋々起き上がり、エアコンを
つけたついでに私のノートを
覗きこんだ。

「結構ちゃんとやったんだ、宿題」
「当たり前でしょ。要には見せてやんないよ」
「見たかねーよ。真緒か流星に頼むから」

要の指が私のノートをなぞっていた。

「ここ、違う。助動詞のあとは原形」
「あ、ほんとだ」
「何で流星が陸上で進学しないか、知ってる?」

突然すぎて何のことかわからなかった。
でもすぐにこの前の話だということに
気付いた。

「真緒に聞いた?」

私は、要に指摘された間違いを
直してからシャーペンを置いた。
空になったグラスからずず、っと
溶けた氷をひとつ含んだ。
口に入らなかったもうひとつの氷が
カラコロと音をたてて
グラスの底に落ちていく。

「わからなくもないけどな」

要は、ぱらぱらと手元にあった
問題集をめくった。

ずっとずっと、
子どもの頃から流星の夢は
オリンピック選手になることだった。
小学校の卒業文集にも書いていたし、
絶対世界一速いランナーになるんだ、って
流星もよく言っていた。

「おれなんて、まだひとつも夢みてないのにさ、流星はもう夢見る子どもを卒業して現実を見てるんだよ」


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