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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

後ろのソファに仰向けになって、
その顔に数学の問題集を乗せたまま
要は言った。
ずっと隣にいると思っていた流星が、
いつの間にか私たちに背中を見せて
歩きだしたような気がした。
流星の将来は、流星のもの。
いつかはそれぞれ別々の道を歩く日が
来るだろう。
でもまだそんなのは遥か先のことで、今は
まだ四人で、子どものままでいたい。
それが正直な気持ちだった。
本当はいろんなことに気付き始めている。
素直に誰かを「好き」とは言えなく
なったこと、クラスの男の子と話す時に
今までより距離を置かれていること、
付き合っていると噂されている
同じクラスの二人を、
本当はみんなうらやましいと
思っていること。
大人に庇護されなければ
何も出来ない立場なのに、
早くそこから出たくてもがいている。
だから気持ちだけが先に
飛び出そうとしている。
背伸びしてのぞいた庇護の外は
想像以上に楽しそうで、自由そうで、
早くそこに行きたい。
でも、勇気がない。行ったらもう、
戻れないような気がして。
「ここ」に、戻ってこられないような
気がする。

「もうすぐ真緒の模試、終わる時間だ」

要がソファから起き上がって
時計を見た。

「塾まで迎えにいく?それでアイスでも食べに行こうか」
「賛成賛成!おれストロベリーとチョコミント」
「私何にしようかなー。クッキー&クリームはこの前食べたし」

まだ、ここでいい。
ここが、いい。
みんな、いるし。

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