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20年 あなたと歩いた時間

第9章 32歳


「アメリカに、いたんだ。流星のお父さんの妹」
「聞いたことある。うろ覚えだけど…でも要、どうやって…」

流星の叔母さんはあの混乱の中、
少し遅れてこの街にやってきたらしい。
叔母さんは自分が十代を過ごした街の
変わり果てた姿に唖然としたそうだ。
そして兄やその家族の死を受け入れるために
何年もの時間を費やした、と。

「いま、仕事で今月中は日本にいるんだって。会ってみる?」
「うん!会う!」

流星の叔母ということは、広輝の大叔母に
あたる。
父方に親戚がいなかった広輝にとって、
それは嬉しいことだった。

「一応、のぞみと広輝のことは話してあるんだ。叔母さん、陽子さんっていうんだけど、是非会いたいってさ」
「でも、何で今さらなんだろ」
「おれが探してたから」

要はそんなこと、今まで一言も言わなかった。

「流星はおれの大事な友達だった。誰よりもな。その流星の大切な家族のためだ、やるしかねえだろ」

あ。その顔。
いつも誰かが落ち込むと、その顔で
ヒーローぶって励ますの。
口の端をちょっと上げて上から目線で、
おれに任せろ、みたいな顔。
真緒は、そんな要が好きだったんだね。
真緒。要もなかなか格好いいとこあるんだね。

「要。ありがとう」
「どういたしまして」

ねえ要。要はいつの間に大人になったの?
真緒と流星は二十歳のままだけど、
要と私は生きて歳を重ねる。
当たり前のことだけど、ようやくそれが
わかったような気がするの。
生きていかなくちゃいけない。
きっと要も同じように思っていたんだね。
私、今までずっと流星を待ち続けてたんだ。
流星との記憶を抱えたままあの街で、
ずっと。
要。
私、決めたよ。歩き出そう。
あなたがいたから、そう思えた。
あなたがいたから、生きていこうと思った。

「のぞみ。流星のことは愛したままでいい。そのままでいいから、」

春の光が降り注ぐ、
懐かしいこの家のダイニング。
父と母は、よく二人でコーヒーを飲みながら
笑っていた。その横で、私は絵を描いていた。
ここは、私が生まれ育った、家族の記憶。

「…結婚、してくれないか」

要は静かに、暖かな日差しのように言った。

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