
20年 あなたと歩いた時間
第11章 手探りの日々
「ただいま」
誰もいない家に、一応言ってみる。
仏壇に声を掛けて、供えていたチョコレートを
失敬する。
「いただきます、ばあちゃん」
母さんが好きでよく買ってくる
チョコレートの箱を持って
二階の自分の部屋に上がると
窓を全開にした。
「食う?」
空に向かって話しかける。
すじ雲が、薄めた絵の具を流したように
空に走る。また、マンション建つのか。
遠くに見える、タワーみたいな建物が
日に日に高くなっていく。
僕はあの震災を知らないけれど
よく懲りずに建てるな、と思う。
それとも、もうみんな
忘れはじめているのだろうか。
生きるために
忘れなければいけないのだろうか。
違うよな。
だから、あいつが僕の中にいるんだ。
「予習しよー」
窓を閉めて、真新しい教科書を開く。
鼻を近づけると、中性紙の匂いがした。
「広輝、帰ってたの?…え、何してるの?」
教科書の匂いを嗅いでいるところに
母さんが入ってきた。
「おわっ、ちょ、黙って帰ってくんなよ」
「なんでいちいち連絡しなきゃなんないのよ」
母さんが、背後からチョコレートをひとつ
つまんだ。
「んー、おいしい」
「…いつも買ってあるよね、これ」
何となく、初めて聞いてみた。
気がつけば我が家にはいつも
このチョコレートがあって
アイスクリームと並ぶ真島家の
二大スイーツなのだ。
京都に住んでいたときは、近所で買えるから
うちにあるんだと思っていたが
どうやら違う。
こっちに引っ越してきても
相変わらずどこかにこのチョコレートが
あるのだ。
「これ?流星が大好きだったから」
誰もいない家に、一応言ってみる。
仏壇に声を掛けて、供えていたチョコレートを
失敬する。
「いただきます、ばあちゃん」
母さんが好きでよく買ってくる
チョコレートの箱を持って
二階の自分の部屋に上がると
窓を全開にした。
「食う?」
空に向かって話しかける。
すじ雲が、薄めた絵の具を流したように
空に走る。また、マンション建つのか。
遠くに見える、タワーみたいな建物が
日に日に高くなっていく。
僕はあの震災を知らないけれど
よく懲りずに建てるな、と思う。
それとも、もうみんな
忘れはじめているのだろうか。
生きるために
忘れなければいけないのだろうか。
違うよな。
だから、あいつが僕の中にいるんだ。
「予習しよー」
窓を閉めて、真新しい教科書を開く。
鼻を近づけると、中性紙の匂いがした。
「広輝、帰ってたの?…え、何してるの?」
教科書の匂いを嗅いでいるところに
母さんが入ってきた。
「おわっ、ちょ、黙って帰ってくんなよ」
「なんでいちいち連絡しなきゃなんないのよ」
母さんが、背後からチョコレートをひとつ
つまんだ。
「んー、おいしい」
「…いつも買ってあるよね、これ」
何となく、初めて聞いてみた。
気がつけば我が家にはいつも
このチョコレートがあって
アイスクリームと並ぶ真島家の
二大スイーツなのだ。
京都に住んでいたときは、近所で買えるから
うちにあるんだと思っていたが
どうやら違う。
こっちに引っ越してきても
相変わらずどこかにこのチョコレートが
あるのだ。
「これ?流星が大好きだったから」
