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20年 あなたと歩いた時間

第11章 手探りの日々

0時間目がある日は、登校時間が早すぎて
いつもの学校までの道のりも学生はまばらだ。
これから満員電車に揺られるサラリーマンや
大学生とおぼしき私服姿がちらほら。

「コウキ!おっはよ!」

朝っぱらからテンションの高いゆいが
後ろから走ってきた。

「…うっす」
「…暗っ」
「ゆいが、明るすぎるんだよ」

少々僕が不機嫌に答えると
ゆいは黙って隣を歩くだけにした。
その気遣いが苦しくて、今度は僕が
明るく話しかける。

「今日、うち来る?」
「…え…うん。行く」

僕が誘うと、今までの元気さはどこへやら
ゆいは下を向いて、でもうれしそうに頷いた。
今日も、頭のてっぺんでまとめた
ヘアスタイルに、隠そうとはしていない
補聴器が目に入る。
耳にかけるタイプのそれに
キラキラするシールをたくさん貼って
まるでデコ携帯みたいになっている。
ゆいは聴力が弱いけれど
会話は普通にできる。
詳しくは知らないけれど、昔、病気で
耳を犠牲にせざるを得なかったらしい。
僕とゆいは、いわゆる彼氏・彼女の関係だ。
二年生の秋から、もう一年半も続いている。
進学校と言われるあの学校でも男女共学だから
珍しくもない。
ほかにも付き合っているやつらはいる。
中には二年生と六年生とか、
周りからは犯罪だとか言われている強者も
いる。
ゆいは、かわいい。
学校に着いて、靴箱のところで分かれて
階段を上がるゆいの後ろ姿をみて
僕はいつも思う。

ゆいの耳、治してやりたいな。

だったらやっぱり医者になるべきなのかな。
十五歳の僕は、何もかも曖昧で
時々自分がいやになる。
進むべき道が見えない。
自分の中で、父親の存在が大きすぎる。
母親の幸せを、心から願うことができない。

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