
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
雨の週末。桜はとうに散ってしまい、
中途半端な葉桜。
なんとなく、美しいとは思えなくて、
好きではない。
ゆいと会うのは先週の日曜の夜以来だった。
この一週間、担任に呼び出されたり、
無性に走りたくなったりで、実はゆいのことを
思い出さなかったのだ。
薄情なものだ。
カノジョのことを忘れかけている、カレシ。
先週の日曜は、要が来ている家に
帰りたくないという理由で
ゆいをホテルに誘った。
ゆいは躊躇することもなくついてきた。
シャワーも浴びずに二回、ゆいを抱いた。
補聴器をつけていなかったゆいに、
何を言っても聞こえないだろうと思い、
黙ってただ腰を振った。
すると、ゆいは裸の僕の背中に痛いほど
爪を立てた。
AV女優の演技みたいなことをされて、僕は
一気にやる気がなくなった。
ホテルでの僕の態度に気づいたのか、
今日までゆいの方からも連絡はなかった。
だけど、今日また要がうちに来ると
母さんに聞いたから、
僕は朝から機嫌が悪かった。
それでゆいに電話したのだ。
今日は、健全に昼間の待ち合わせ。
「どこ行く?」
今日のゆいは、白いパーカとスキニーデニムに
赤いヒールのない靴を履いている。
小さなバッグを斜めに掛けて、空いた両手が
さっきから僕の腕の辺りで
不自然に動いている。
「うーん。観たい映画もないし、行きたいところもない。…デートなのにね」
ゆいらしくなく、消極的な答えだ。
しばらく無言で歩き、
なんとなく電車にでも乗ればそのうち
思いつくだろうと考えた、その時。
「あ」
「ん?」
「私、コウキが走るとこ見たい」
「…んなの、学校で見てるだろ」
「却下?」
「却下」
僕は少し意地悪く言う。
走るときは、走る楽しさとか気持ちよさが
わかるやつに側にいてほしい。
「あ」
「なに?」
今度は僕が思い付いた。
「県営競技場」
「競技場?やっぱ走るんじゃん」
「違う。見たいものがあるんだ」
中途半端な葉桜。
なんとなく、美しいとは思えなくて、
好きではない。
ゆいと会うのは先週の日曜の夜以来だった。
この一週間、担任に呼び出されたり、
無性に走りたくなったりで、実はゆいのことを
思い出さなかったのだ。
薄情なものだ。
カノジョのことを忘れかけている、カレシ。
先週の日曜は、要が来ている家に
帰りたくないという理由で
ゆいをホテルに誘った。
ゆいは躊躇することもなくついてきた。
シャワーも浴びずに二回、ゆいを抱いた。
補聴器をつけていなかったゆいに、
何を言っても聞こえないだろうと思い、
黙ってただ腰を振った。
すると、ゆいは裸の僕の背中に痛いほど
爪を立てた。
AV女優の演技みたいなことをされて、僕は
一気にやる気がなくなった。
ホテルでの僕の態度に気づいたのか、
今日までゆいの方からも連絡はなかった。
だけど、今日また要がうちに来ると
母さんに聞いたから、
僕は朝から機嫌が悪かった。
それでゆいに電話したのだ。
今日は、健全に昼間の待ち合わせ。
「どこ行く?」
今日のゆいは、白いパーカとスキニーデニムに
赤いヒールのない靴を履いている。
小さなバッグを斜めに掛けて、空いた両手が
さっきから僕の腕の辺りで
不自然に動いている。
「うーん。観たい映画もないし、行きたいところもない。…デートなのにね」
ゆいらしくなく、消極的な答えだ。
しばらく無言で歩き、
なんとなく電車にでも乗ればそのうち
思いつくだろうと考えた、その時。
「あ」
「ん?」
「私、コウキが走るとこ見たい」
「…んなの、学校で見てるだろ」
「却下?」
「却下」
僕は少し意地悪く言う。
走るときは、走る楽しさとか気持ちよさが
わかるやつに側にいてほしい。
「あ」
「なに?」
今度は僕が思い付いた。
「県営競技場」
「競技場?やっぱ走るんじゃん」
「違う。見たいものがあるんだ」
