
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
県営競技場は、三年生の春に県大会で
来た場所だ。
あの時僕は、初めて出会った。
歴代の種目別記録保持者のプレートが
掲げられた壁、そのタイムと共に、
長い間破られることなく静かに佇む
その名前に。
『小野塚流星』
僕はひんやりとしたリノリウムの廊下に立って
壁を見上げた。
ここに、あいつも立っただろうか。
自分の記録を誇らしげに見上げただろうか。
流星がこの世に残したもの。
あいつが夢中になったもの。
「これ?見たかったのって」
「そう…これ。まだある…まだ破られてないんだな」
ゆいは意味がわからないながらも、
ずっと隣でプレートを見上げていた。
風に乗って、試合結果のタイムを読み上げる
声が聞こえてくる。
「僕の、父さん」
「お父さん?」
「1988年…に、中学2年…?」
計算の早いゆいは、その若さに
少し驚いたようだった。
話したことはない。昔からいない、とだけ
言ってある。
片親なんて珍しくない時代だ。
詮索されたこともない。
僕らが生まれる前に、地震があっただろ。
この地域で暮らす子ども達は、
あの震災について学ぶのは
当然のこととして捉えている。
ゆいもその一人だ。
僕の生まれ育った京都では、
史実として触れる程度だった。
だからこっちに引っ越してきて、
その日が近づくと震災関係のイベントの
多さに驚いた。
それだけ、人々にとって震災は
過去にはなっていないことが窺える。
震災後の四月にゆいを産んだ
ゆいのお母さんは、大きなお腹を抱えて
不便な生活を経験したらしい。
大変だった、っていつもお母さん、言ってる。
まだガスが復旧してなくて
生まれたばかりの私のお風呂が
大変だったって。
来た場所だ。
あの時僕は、初めて出会った。
歴代の種目別記録保持者のプレートが
掲げられた壁、そのタイムと共に、
長い間破られることなく静かに佇む
その名前に。
『小野塚流星』
僕はひんやりとしたリノリウムの廊下に立って
壁を見上げた。
ここに、あいつも立っただろうか。
自分の記録を誇らしげに見上げただろうか。
流星がこの世に残したもの。
あいつが夢中になったもの。
「これ?見たかったのって」
「そう…これ。まだある…まだ破られてないんだな」
ゆいは意味がわからないながらも、
ずっと隣でプレートを見上げていた。
風に乗って、試合結果のタイムを読み上げる
声が聞こえてくる。
「僕の、父さん」
「お父さん?」
「1988年…に、中学2年…?」
計算の早いゆいは、その若さに
少し驚いたようだった。
話したことはない。昔からいない、とだけ
言ってある。
片親なんて珍しくない時代だ。
詮索されたこともない。
僕らが生まれる前に、地震があっただろ。
この地域で暮らす子ども達は、
あの震災について学ぶのは
当然のこととして捉えている。
ゆいもその一人だ。
僕の生まれ育った京都では、
史実として触れる程度だった。
だからこっちに引っ越してきて、
その日が近づくと震災関係のイベントの
多さに驚いた。
それだけ、人々にとって震災は
過去にはなっていないことが窺える。
震災後の四月にゆいを産んだ
ゆいのお母さんは、大きなお腹を抱えて
不便な生活を経験したらしい。
大変だった、っていつもお母さん、言ってる。
まだガスが復旧してなくて
生まれたばかりの私のお風呂が
大変だったって。
