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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

その震災で犠牲になったやつがいるんだ。
走ることが大好きだった。
幼なじみの女の子が好きで…その子を将来
病気でなくさないように、
医者を目指してた。
でも、それができないことを知っていた。
自分は二十歳で死ぬって知ってたんだ。
だから、好きな女の子を救うために、
その子との間に子どもを作った。
子どもが自分の遺志を継いでくれると信じて。

待って、信じないわけじゃないけど、
それ本当の話?

もちろん。
ある意味卑怯だよな。
がっちがちにレール引いてさ、
おまえはこの上を走るために生まれたんだ、
ってことだろ。
普通そんなこと親に言われたら、
反抗したくなるよな。…けど、いないんだよ。
反抗する相手が。ぼくが生まれた時には、
いなかったんだよ。

ねえ、その女の子って広輝のお母さんの
ことでしょ?お母さん、大丈夫なの?

めっちゃ元気。
病気の話なんて聞いたこともないんだ。
だから、流星の…父さんのことも
どこまで本当なんだか。
ただ、川辺先生がさ、父さんが高校時代に
教わってたらしいんだけど、
仲良かったみたいで。父さんのことはほとんど
川辺先生から聞いた。

そこまで一気に話すと、僕は急に力が抜けて
座り込んでしまった。
つめたい壁を背中に感じて、
熱がひいていく気がした。ゆいは、
隣で立ちすくんだまま
プレートを見つめている。
あの、川辺先生に手渡された手紙の束は、
まだ読んでいない。あの中には、流星の想いが
これでもかってほど詰まっているに違いない。
その想いを、僕は受け止めきれるだろうか。一時は固まった決意も、冷静になればなるほど揺らいでしまうのだった。
その時、ちょうど試合を終えたような
中学生らしき少年がスパイクを肩に掛けて僕の目の前を通りすぎた。それは、僕に顔も背丈もそっくりな…

「流星…っ!」

僕は思わず叫んだ。少年は呼び止められてゆっくり振り返った。
間違えるはずがない。何度も何度も見た写真の中の小野塚流星は、僕の目に焼き付いている。
その少年がいま、ここにいる。

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