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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

でも、本当の意味はこうだ。

『お母さんを亡くして悲しむのぞみを見たくない』

罰があたったんだ。
あんなふうに祈ったりしたから。
でも、でも。
病院の前に自転車を乗り捨て、
開く前の自動ドアにぶつかりそうになりながら
僕は病室を目指した。
その時見慣れた白衣の後ろ姿を見つけた。

「…んでだよ、何でだよ!十河先生、絶対にのぞみの母さんを助けるって言ってたじゃねーか!」

迷わず駆け寄り、その背中に叫んだ。
11歳の僕には、こんなことしかできない。
悔しい。

「…流星くん」

十河先生はゆっくり振り返った。
患者ひとりの死よりも、
まだ生きられる命が、先生を待っているのに。
十河先生は僕の高さに目線を合わせ、
何か言おうとした。

「おばさんを助ける方法が…なかったんなら…のぞみも…いつか…いつか同じ病気に…」

十河先生は悪くないのに。
ただ、医学の進歩がもう少し早ければ。

「すまなかった。君の大切な人を悲しませてしまった。本当に申し訳ない」

違う。そんなことを聞きたかったんじゃない。
僕は、僕は…

「君が大人になるころには、きっと治療法が見つかっていると信じたい。君には、その可能性がある」

あの言葉に、僕は暗闇の中に
小さな光を見た気がした。
これからは、僕が守る。
のぞみを死なせたりはしない。
のぞみからおばさんを奪った病気を絶対に
『治る病気』にしてみせる。

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