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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

「あ!おばさん!流星、今日一位だったんだよ!100mで、県で一位だよ!」

僕よりも先にのぞみが報告した。

「へえ、走ってばっかりいると思ってたけど、大したもんだね。…でもね、流星、走ってても将来食べてはいけないんだからね。母さんちょっとお姉ちゃん迎えに行ってくるから。のぞみちゃん、上がって行ってね」

母さんはそう言って自転車に乗った。

「…県で一位なのにね…」

のぞみは、母さんの後ろ姿を見て言った。
なんで、のぞみが気を落とすんだ?

「いつもああなんだ。確かに、陸上で食ってけないよな。っておれ、そこまで考えてねーよ。部活だろ、部活」
「夢は…?」

のぞみが言っていることはすぐにわかった。

「世界一のランナーになるんでしょ?」

声を震わせてのぞみが振り返った。
今にも泣き出しそうな表情だ。

「そんなの、ガキの頃の夢だろ。だいたい日本人のカラダはどんなに鍛え上げても限界があるんだよ。短距離の金メダリストに日本人なんていないだろ?世界一なんてなれねえんだよっ」

思わず、キツイ言い方をしてしまったが、
気づいた時にはもう遅かった。
膝の痛みが気になってイライラしていたのも
ある。
母さんが喜んでくれなかったのもある。
のぞみは目を真っ赤にして僕を睨んでいた。

「流星の嘘つき」

そう言い残して帰っていった。
僕は、追いかけることもせず
開いたままの玄関から、二階の自分の部屋に
直行した。

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