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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

県大会で一位になった翌日、学校に行くと
みんなに声を掛けられた。
月曜日恒例の全校集会では体育館の舞台に
上がらされ、校長先生に表彰状を
読み上げられた。
陸上部の仲間が口笛を吹き、
誰かがクラッカーを鳴らした。
さすがにそれは先生に取り押さえられたが、
僕は一躍ヒーローって感じだった。
陸上部の次期キャプテンだとか、
早くも推薦で高校から誘いが来てるだとか、
噂もそれなりにあった。
だけど、なんとなくどうでもいい気が
していた。
一位になっても、記録を出しても、
僕が目指しているのはそんなところじゃない。
ちやほやされて、妙に冷静になる自分がいた。
そんな時だった。僕の周りに次々と変化が
起き始めた。

「流星、あんた歩き方おかしくない?ケガでもしたの?」

母さんに足のことを指摘された。
試合の日から感じていた左の膝の痛みが
徐々にキツくなってきていた。
実際今までみたいに走ることすらできなくて
このところ何かと理由をつけて部活も
休んでいた。

「早めに病院行きなさい。走れなくなるわよ、いつか」

わかってる。
本当は、痛みの正体も原因もわかってる。
でも仕方ないことだ。
もう走ることはやめようと決めたのだ。
悔いはない。
走ることよりも、しなければいけないことが
ある。

「…母さんも一緒に行ってあげるから。明日学校行く前に病院行こうか」
「わかった。…おやすみ」

この時僕は、この痛みはスポーツ選手に
よくあるシンスプリントが原因だと
思っていた。
我流のフォームで筋肉を酷使したからか。
それで記録を作れたのだから、
もうよしとしようじゃないか。
それくらいにしか思っていなかった。

翌朝、朝早くから受付を済ませたのに、
検査検査でまだ全然診察を受けていない。

「大学病院ってなんでこんな待ち時間長いんだろうね…」

近所の外科に行ったら、大学病院を
紹介された。診断書を持たされて、
できるだけ早く行って下さいと言われ、
土日をはさんで今日、母さんと二人で病院に
来た。
ここに来るのは、のぞみのおばさんが
亡くなった時以来だ。
母さんは持ってきた文庫本も読み終わった
らしく、あの独特の質感の長椅子を
立ったと思うと、缶ジュースを2本持って
戻ってきた。
オレンジと、りんごだった。

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