
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
悪いことは重なるもので。
僕と母さんが病院から戻ると、
父さんとじいちゃんがうちにいた。
平日の夕方に二人が家にいるなんて、
いいニュースなわけがない。
母さんは覚悟した表情で、並んで座る二人の
向かいに正座した。
「小野塚酒造は、事実上の倒産をした」
じいちゃんが噛み締めるように言うと、
父さんは誰に言うでもなく「申し訳ない」と
つぶやいた。
「これからまた頑張りましょう。命がなくなるわけじゃ、ないんですから」
僕は母さんの言葉を遠くで聞いていた。
母さん、どこまで強いんだ…。
僕は、陽が暮れて急激に冷え込んできたにもかかわらず、おもてに出た。
膝は相変わらず痛むし、自分ちの生活は
どうなるかわからないし、こんな状況、
14歳には辛すぎるよな。
姉ちゃんは公立の中学に転校するだろうし、もしかしたら引っ越しだってするかも
しれない。
「何の仕打ちだよ、くそー」
声に出した。
「んだよ、この膝はよー」
もう一回、声に出した。
「なんでおれなんだよ。なんでうちの家族なんだよ。なんでのぞみの母さんなんだよ。なんで、なんで…」
涙が出た。薄闇の中を泣きながら歩くと、
方向感覚でさえあやしくなるんだな。
気がつくといつもの公園だった。
要と、真緒と、のぞみと四人で
いつも遊んでいる公園。
さすがにもう人はいなくて、
枯れ葉がふきだまりになって
カサカサ音を立てている。
「早く大人になりてーよ…」
大人になればこの理不尽な状況を
打破できるような気がしていた。
非力なのは、14歳のせいだ。
見上げると南西の空に金星が輝いていた。
濃い紫色の空に、気の遠くなるほどの距離から
星の輝きが届く。
あの星は地球から何光年離れているんだっけ…
これほど打ちのめされても、空が、
星がきれいだと思えた。
「…小野塚?」
声のした方に目を凝らすと、同じクラスの
松井がいた。
「松井?どうしたの?」
「塾の帰り。小野塚は?今日休んでただろ」
「あー…、ちょっと具合悪くて」
「なるほど」
松井は学年一の秀才で、話していることが
難しく、時々噛み合わないこともあるけど、
僕は松井が好きだ。
僕と母さんが病院から戻ると、
父さんとじいちゃんがうちにいた。
平日の夕方に二人が家にいるなんて、
いいニュースなわけがない。
母さんは覚悟した表情で、並んで座る二人の
向かいに正座した。
「小野塚酒造は、事実上の倒産をした」
じいちゃんが噛み締めるように言うと、
父さんは誰に言うでもなく「申し訳ない」と
つぶやいた。
「これからまた頑張りましょう。命がなくなるわけじゃ、ないんですから」
僕は母さんの言葉を遠くで聞いていた。
母さん、どこまで強いんだ…。
僕は、陽が暮れて急激に冷え込んできたにもかかわらず、おもてに出た。
膝は相変わらず痛むし、自分ちの生活は
どうなるかわからないし、こんな状況、
14歳には辛すぎるよな。
姉ちゃんは公立の中学に転校するだろうし、もしかしたら引っ越しだってするかも
しれない。
「何の仕打ちだよ、くそー」
声に出した。
「んだよ、この膝はよー」
もう一回、声に出した。
「なんでおれなんだよ。なんでうちの家族なんだよ。なんでのぞみの母さんなんだよ。なんで、なんで…」
涙が出た。薄闇の中を泣きながら歩くと、
方向感覚でさえあやしくなるんだな。
気がつくといつもの公園だった。
要と、真緒と、のぞみと四人で
いつも遊んでいる公園。
さすがにもう人はいなくて、
枯れ葉がふきだまりになって
カサカサ音を立てている。
「早く大人になりてーよ…」
大人になればこの理不尽な状況を
打破できるような気がしていた。
非力なのは、14歳のせいだ。
見上げると南西の空に金星が輝いていた。
濃い紫色の空に、気の遠くなるほどの距離から
星の輝きが届く。
あの星は地球から何光年離れているんだっけ…
これほど打ちのめされても、空が、
星がきれいだと思えた。
「…小野塚?」
声のした方に目を凝らすと、同じクラスの
松井がいた。
「松井?どうしたの?」
「塾の帰り。小野塚は?今日休んでただろ」
「あー…、ちょっと具合悪くて」
「なるほど」
松井は学年一の秀才で、話していることが
難しく、時々噛み合わないこともあるけど、
僕は松井が好きだ。
