
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「なあ、松井」
「ん?」
「おまえ、どんな大人になるんだ?」
「…『なりたい』じゃなくて?」
「どっちだって一緒じゃん。なりたいからなるんだろ」
「ああ、そうか」
松井は納得したのか、自転車を止めて
僕の隣に座った。
「市高の理数科から東大に行って、数学者になる。それでリーマン予想を解決する」
「何だ?リーマン予想って」
「数学の未解決問題。詳しくはわからないんだ。でも誰も解けない問題があるなんて、ロマンチックだろ?」
「ロマンチックか…おまえ、面白いな」
松井は僕より背が低くて声は高い。
体育は苦手でピアノがうまい。
「小野塚も市高の理数科行くんだろ」
「…高校のことなんか、まだ考えたこともないよ」
「陸上で進学するのか?小野塚は県でトップだもんな」
「いや…陸上は、辞める」
「辞める?!なんで?…いや、でもわかる気がする」
陸上は、辞める。
そんなこと、いつ決めたんだろう?
自分でも驚いた。
「僕はいつも小野塚に抜かされやしないかって、テストのたびにびくびくしてるんだ」
そうだ。いつも松井が一番で僕が二番。
「前に誰もいないのって、不安だよな」
別に松井を抜いてやろうなんて一度も
思ったことがない。
というか、松井は本気で頭がいいし、
僕が松井よりいい点数をとれないだけだ。
県で1位の100mの記録だって、抜かれても
どうってことはない。
抜かれて、それでこの足が治るなら。
「ロマンチックな未解決問題、まだ他にもあるよ」
「おれにも解けってか?ていうか、おまえさー…はははは」
「いやいや、それは小野塚が…あははは」
松井は僕の下らない話にいつまでも
付き合ってくれた。
そうだ。
走ることをやめるくらい、どうってことない。
こうやって友達と笑い合えること、
将来を想像することのほうがずっと大切だ。
全然、惜しくない。
「ん?」
「おまえ、どんな大人になるんだ?」
「…『なりたい』じゃなくて?」
「どっちだって一緒じゃん。なりたいからなるんだろ」
「ああ、そうか」
松井は納得したのか、自転車を止めて
僕の隣に座った。
「市高の理数科から東大に行って、数学者になる。それでリーマン予想を解決する」
「何だ?リーマン予想って」
「数学の未解決問題。詳しくはわからないんだ。でも誰も解けない問題があるなんて、ロマンチックだろ?」
「ロマンチックか…おまえ、面白いな」
松井は僕より背が低くて声は高い。
体育は苦手でピアノがうまい。
「小野塚も市高の理数科行くんだろ」
「…高校のことなんか、まだ考えたこともないよ」
「陸上で進学するのか?小野塚は県でトップだもんな」
「いや…陸上は、辞める」
「辞める?!なんで?…いや、でもわかる気がする」
陸上は、辞める。
そんなこと、いつ決めたんだろう?
自分でも驚いた。
「僕はいつも小野塚に抜かされやしないかって、テストのたびにびくびくしてるんだ」
そうだ。いつも松井が一番で僕が二番。
「前に誰もいないのって、不安だよな」
別に松井を抜いてやろうなんて一度も
思ったことがない。
というか、松井は本気で頭がいいし、
僕が松井よりいい点数をとれないだけだ。
県で1位の100mの記録だって、抜かれても
どうってことはない。
抜かれて、それでこの足が治るなら。
「ロマンチックな未解決問題、まだ他にもあるよ」
「おれにも解けってか?ていうか、おまえさー…はははは」
「いやいや、それは小野塚が…あははは」
松井は僕の下らない話にいつまでも
付き合ってくれた。
そうだ。
走ることをやめるくらい、どうってことない。
こうやって友達と笑い合えること、
将来を想像することのほうがずっと大切だ。
全然、惜しくない。
