
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
「さむ…っ」
玄関を開けると、確実に昨日より冬の冷たさを
含んだ風が吹いた。
ゆうべは、残った従業員と父さん達が
夜遅くまでこれからのことを話し合っていた。
少し前からこの事態を想定して、
退職を勧めていたけれど、
じいちゃんの代からの杜氏が最後まで
会社に残ってくれた。
母さんも疲れたのか起きてはこなかった。
こんなことは初めてだった。
仕方なく僕はアイロンのかかっていない
シワだらけのシャツを着て学校に行く支度を
した。
いつも通りの時間に家を出ると、
前にのぞみの姿が見えた。
いつもより、ずっと早い。
「早いじゃん。どうした?」
「おはよ…久しぶりだね」
「そうか?毎日学校で会ってると思うけど?」
「昨日、どうしたの?珍しく休んで」
「あー、なんか腹こわしてさ」
「えー!お腹出して寝てたんでしょ」
「違うって!…あ、今日からだろ、冬」
僕は話題をかえた。
「うん。そうだね」
「寒くなるんだな、また」
「そうだね」
「あのさ…」
「ん?」
「いや、何もない。じゃあ後でな」
のぞみは疑うことなく、僕が欠席した理由を
信じた。
絶対に言えない。足のことも、
陸上部を辞めることも。
のぞみには、本当のことを言いたくない。
僕は松井を見つけて、そっちへ走った。
松井のケツをかばんで叩くと、
松井は笑いながら仕返しをした。
ふと後ろを振り返ると、のぞみは真緒と
話しながら歩いていた。
「…小野塚、テンションおかしくね?」
松井がケツを押さえて笑いながら言った。
「何言ってんだよ。あ、それよりさ、昨日言ってた本…」
のぞみには、カッコ悪い自分を見せたくない。
いつからか、そう思うようになっていた。
それは多分、のぞみのことを好きだと
わかってからだ。
僕にしがみついて泣いていたあの日から。
のぞみを守ると決めた日から。
そんなカッコいいことを考えていながら、
やっぱり色んなことがショックだったのと、
初めて眠れない夜を経験したせいで、
授業はボロボロだった。
当てられてすぐに答えられなかったのには、
先生もびっくりしていた。
昨日から飲み始めた薬の副作用なのか、
やたらと喉が乾く。
昼過ぎからは、しゃべるのも面倒くさく
なってきた。
要たちも、僕の様子を気遣ってか
話しかけてこない。
…ちゃんと言うべきかな。
ガキのころからずっと一緒にいるもんな。
玄関を開けると、確実に昨日より冬の冷たさを
含んだ風が吹いた。
ゆうべは、残った従業員と父さん達が
夜遅くまでこれからのことを話し合っていた。
少し前からこの事態を想定して、
退職を勧めていたけれど、
じいちゃんの代からの杜氏が最後まで
会社に残ってくれた。
母さんも疲れたのか起きてはこなかった。
こんなことは初めてだった。
仕方なく僕はアイロンのかかっていない
シワだらけのシャツを着て学校に行く支度を
した。
いつも通りの時間に家を出ると、
前にのぞみの姿が見えた。
いつもより、ずっと早い。
「早いじゃん。どうした?」
「おはよ…久しぶりだね」
「そうか?毎日学校で会ってると思うけど?」
「昨日、どうしたの?珍しく休んで」
「あー、なんか腹こわしてさ」
「えー!お腹出して寝てたんでしょ」
「違うって!…あ、今日からだろ、冬」
僕は話題をかえた。
「うん。そうだね」
「寒くなるんだな、また」
「そうだね」
「あのさ…」
「ん?」
「いや、何もない。じゃあ後でな」
のぞみは疑うことなく、僕が欠席した理由を
信じた。
絶対に言えない。足のことも、
陸上部を辞めることも。
のぞみには、本当のことを言いたくない。
僕は松井を見つけて、そっちへ走った。
松井のケツをかばんで叩くと、
松井は笑いながら仕返しをした。
ふと後ろを振り返ると、のぞみは真緒と
話しながら歩いていた。
「…小野塚、テンションおかしくね?」
松井がケツを押さえて笑いながら言った。
「何言ってんだよ。あ、それよりさ、昨日言ってた本…」
のぞみには、カッコ悪い自分を見せたくない。
いつからか、そう思うようになっていた。
それは多分、のぞみのことを好きだと
わかってからだ。
僕にしがみついて泣いていたあの日から。
のぞみを守ると決めた日から。
そんなカッコいいことを考えていながら、
やっぱり色んなことがショックだったのと、
初めて眠れない夜を経験したせいで、
授業はボロボロだった。
当てられてすぐに答えられなかったのには、
先生もびっくりしていた。
昨日から飲み始めた薬の副作用なのか、
やたらと喉が乾く。
昼過ぎからは、しゃべるのも面倒くさく
なってきた。
要たちも、僕の様子を気遣ってか
話しかけてこない。
…ちゃんと言うべきかな。
ガキのころからずっと一緒にいるもんな。
