
20年 あなたと歩いた時間
第12章 君が生きた日々
さっき購買で買ったパンを食べる気にもならず
僕は席を立った。
机に突っ伏していたせいで
勢いよく立ち上がると足元がふらついた。
「り、流星?大丈夫か?」
まわりにいたやつらがびっくりして
振り返った。
「あ、ごめん。なあ、要たち知らね?」
「渡り廊下にいたよ。そういや加納、髪切ってたよなー」
「切ってた切ってた!結構かわいいよな、加納って」
「あ、おまえタイプなん?」
あっという間に僕以外のやつらは真緒の
話題に移っていった。
僕がどんなになっても、
それは僕に起こっていることであって、
世界は何も変わらない。
そうだ。そんな小さなことに負けてたまるか。
これを越えたら大人になれるかも知れない。
ガキのころからずっと一緒だったあいつらに
心配させたくない。
僕は、僕の力でーーーー
渡り廊下に出ると、逃げる要を真緒が
追いかけて階段を降りていった。
あ。ほんとだ。真緒、髪切ってる。
そのふたりをほんわかした笑顔で見送るのぞみがいた。
「流星!あのさ、あの…私たち」
「ん?」
僕を見つけたのぞみが慌てたように、制服の裾をつかんだ。…こういうところがヤバイんだよな。無意識にくすぐられる…。
「のぞみ。今日いつもの公園に集合な。みんなに言っといて」
「う、うん。あのね、」
「ん?」
「流星、寝癖」
背伸びして僕の髪に手を伸ばしたのぞみから、ふわっと花の香りがした。
のぞみは気づいているのだろうか。のぞみが思っている以上に、僕はのぞみを女の子だと意識していることに。いつまでも幼馴染みの友達だとは、思っていないことに。こんな気持ちを吐き出す術をいつのまにか、覚えたことに。僕だって、例外じゃないんだ。
「あ…直してくる」
体が熱くなるのを感じて僕はその場から離れた。
夏休みのおわり、合宿から帰ってきた日、アイスクリーム屋で偶然のぞみに会った。帰り道、荷台にのぞみを乗せると、やわらかい頬っぺたを僕の背中にくっつけて、無防備に風を受けるのぞみがいた。その時と同じ香りだった。
汗臭い自分がひどく汚く思えた。
その夜、その香りを思い出して僕は気持ちを放出した。色んなことが頭の中でデフォルメされて罪悪感を感じた。
でも僕の後ろで、安心したように重みを預けていたのぞみが誰よりも大切だと思った。
トイレで寝癖を直したついでに顔も洗った。
まだ、やれる。
死んでたまるか。
僕は席を立った。
机に突っ伏していたせいで
勢いよく立ち上がると足元がふらついた。
「り、流星?大丈夫か?」
まわりにいたやつらがびっくりして
振り返った。
「あ、ごめん。なあ、要たち知らね?」
「渡り廊下にいたよ。そういや加納、髪切ってたよなー」
「切ってた切ってた!結構かわいいよな、加納って」
「あ、おまえタイプなん?」
あっという間に僕以外のやつらは真緒の
話題に移っていった。
僕がどんなになっても、
それは僕に起こっていることであって、
世界は何も変わらない。
そうだ。そんな小さなことに負けてたまるか。
これを越えたら大人になれるかも知れない。
ガキのころからずっと一緒だったあいつらに
心配させたくない。
僕は、僕の力でーーーー
渡り廊下に出ると、逃げる要を真緒が
追いかけて階段を降りていった。
あ。ほんとだ。真緒、髪切ってる。
そのふたりをほんわかした笑顔で見送るのぞみがいた。
「流星!あのさ、あの…私たち」
「ん?」
僕を見つけたのぞみが慌てたように、制服の裾をつかんだ。…こういうところがヤバイんだよな。無意識にくすぐられる…。
「のぞみ。今日いつもの公園に集合な。みんなに言っといて」
「う、うん。あのね、」
「ん?」
「流星、寝癖」
背伸びして僕の髪に手を伸ばしたのぞみから、ふわっと花の香りがした。
のぞみは気づいているのだろうか。のぞみが思っている以上に、僕はのぞみを女の子だと意識していることに。いつまでも幼馴染みの友達だとは、思っていないことに。こんな気持ちを吐き出す術をいつのまにか、覚えたことに。僕だって、例外じゃないんだ。
「あ…直してくる」
体が熱くなるのを感じて僕はその場から離れた。
夏休みのおわり、合宿から帰ってきた日、アイスクリーム屋で偶然のぞみに会った。帰り道、荷台にのぞみを乗せると、やわらかい頬っぺたを僕の背中にくっつけて、無防備に風を受けるのぞみがいた。その時と同じ香りだった。
汗臭い自分がひどく汚く思えた。
その夜、その香りを思い出して僕は気持ちを放出した。色んなことが頭の中でデフォルメされて罪悪感を感じた。
でも僕の後ろで、安心したように重みを預けていたのぞみが誰よりも大切だと思った。
トイレで寝癖を直したついでに顔も洗った。
まだ、やれる。
死んでたまるか。
