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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

要のやつ。言うなっつったのに。
僕は夏休みから知り合いのところで
新聞配達のバイトをしていた。
薬代が、半端ないのだ。
自己破産しているから医療費はかからないが、
母さんが無認可の新薬だとか漢方だとか、
片っ端から飲めって勧めてくる。
だからせめてもの足しになればと
始めたのだ。
それが功を奏してなのか実際腫瘍は
小さくなっているんだし、
無下にはできないでいた。

「みんなで合格しような、市高」

真緒の大きな目が、動いた。

「なんで?なんでそんな、何でもひとりで背負っちゃうの?かっこいいと思ってんの?知ってるんだからね。流星が病院通ってるの」

最後だけ、低くトーンを下げて真緒が
言った。

「のぞみには言うなよ」
「じゃああの子に心配させないで」
「わかってるよ。だから」

真緒は僕とそんなに変わらない高さの視線を
外さずに、言った。

「絶対言うな。わかったか」
「…バカ流星」

はーっと息を吐くと、力が抜けた。
自販機で缶の紅茶を買ってそれで薬を
流し込んだ。
これがなけりゃ、生きていけないなんてな。
錠剤を出した後の小さなアルミの袋を、
更に小さく破った。

早く大人になりてー。

窓の外には、今にも雪が降りそうな
グレーの雲が広がっていた。
僕は、大人になれるんだろうか?
そんな疑問が、初めて湧いた。
未来に押し潰されそうになりながら、
それでも僕はそこに向かおうとしている。
紅茶の缶は握っても潰れなかった。
何事もなかったかのように、
三人のまえに戻るにはもう少し時間がいる。


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