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20年 あなたと歩いた時間

第1章 14歳

流星は、沈んでゆく太陽を追いかけて
ゆっくりと自転車を漕いだ。

「私、流星と話してると何か頑張ろうって思えてくる。二学期から勉強頑張るよ」
「今日から頑張れって」

この時、私はまだ誰にも恋をしていなかった。
絶望も、挫折も、無念も、後悔も、
全て知らないのと同じ感覚で。

夏休みの後半は、結局四人揃うことは
なかった。それぞれに予定があったのが
表向きの理由だが、真緒と要のことが
みんなの心の中でくすぶっていた。
二学期が始まって、またいつもの日常が
戻ったというのに、要は大して仲良くもない友達とつるみ、真緒と私はなぜか
堀川先輩の話題を避けたままだった。
流星は陸上部のキャプテンには
ならなかった。
自分にも他人にも厳しすぎる流星が
キャプテンになれば、
部員はついてこられなくなるだろうと
言われたそうだ。

「真緒、今日も塾?」
「うん。授業はないけど、自習室寄ってく」
「そっか…じゃあね」

私はひとり、いつもの道を歩いて帰った。
途中にある公園の前を通りかかると、
ものすごい不安が心をよぎった。
誰もいない公園は、いつもよりずっと広く
見えた。つい数ヶ月前、
ここでみんなが私のことを
励ましてくれたことが嘘のようだった。
お弁当のことでからかわれたあの日、
要はその相手の男子達を殴った。
真緒は私のぶんのお弁当を
作ってくれると言った。
流星はなにも言わず手を握ってくれた。
それなのに、いつの間にかそれぞれの
世界が出来上がっていた。
私だけが四人の世界に依存していた。
幼稚園の頃からずっとずっと一緒にいた。
これからもそれは変わらないと思ってたのに。
四人が、バラバラになりそうで怖かった。
ひぐらしの鳴き声が遠くで聞こえる。
涙があふれても、今日は誰も手を握っては
くれなかった。

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