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20年 あなたと歩いた時間

第12章 君が生きた日々

話すよりもずっと饒舌に、僕への気持ちが
綴られていた。
…こんなことを思っていたなんて。

「小野塚、何読んでんの?」

松井が前の席に鞄を置いて、僕の手元を
のぞいた。

「あ、これ?いや、何でもない」

僕は慌てて手紙を裏返した。
何となく、のぞみとのことはあまり人に
知られたくない。知られたら、減りそうで。
ていうか、なんだこの折り方。
元に戻せないぞ。

「…気ぃ悪くしたら、ごめん」

松井はそう前置きして、言った。

「小野塚って、紺野と何かあるの?」
「何かって?」
「いや、ないんならいい」
「言えよ。何?」

一旦前を向いて、鞄の中の教科書を
机にしまうと、松井は僕の方を向いて
手招きした。

「噂だけどさ、ていうか、理数科の中だけな」
「もったいぶるなよ」
「…紺野が、夏休み中に妊娠して、相手がおまえだって」
「…は?」
「だよな、違うよな」

ちょっと待て。何の噂だよ。
火のないところに何とか、じゃねーよ!
出火してないから!

「誰が言ってた?」
「井田とか…渡辺が」

その二人とは、夏期講習が同じだった。
けど、塾ではそんなに話さなかったし、
何なんだ?

「気にすんなよ」
「するよ」
「だな」

そこで担任が入ってきた。
隣の席の紺野はまだ来ていない。

「はい連絡事項。文化祭実行委員、放課後図書室。来月の全国模試、受ける人は職員室へ。自転車通学者はー…」

何なんだよ。
紺野が絡むロクくなことが起こらない。

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